天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

象のウメ子

橋と紅梅(小田原城)

 湯河原幕山梅林に行くつもりで電車に乗って小田原まで来たが、乗り換えする間に気が変わった。雨が降りそうなので、小田原城に寄ってみることにした。象のウメ子の老いた姿に心が痛んだ。昭和二十五年三歳で来日してからずっとこの地に生きてきた。
まだ時間が早いので、寒緋桜を見るべくバスで入生田に行った。長興山・紹太寺の門前に、細い木だが鮮やかな花を咲かせる緋桜がある。残念ながら、蕾さえ見えなかった。この日が一番寒く感じた。

      紅梅のナルシシズムのお堀かな
      箒目の庭に白梅ちりにけり
      梅咲くや城址の檻の猿団子
      猿の顔ひときは赤き寒さかな


  大木の楠の根方にひこばえのすくすく生えて白き糞尿
  小田原城常盤木門を出でくれば梅もくれなゐ橋もくれなゐ
  湧く水の口に集へる寒鯉の黒き鱗に混じる金色
  砂敷ける本丸跡に丸々と鳩らふくらみ寒さしのげり
  肩、額げっそり痩せて如月の寒さに耐ふる象のウメ子は
  昭和二十二年生れのインド象ウメ子は壁に尻つけ揺らぐ
  足の爪白々ぬれてつややけき象のウメ子は六十一歳
  三椏のつぼみも硬き入生田の長興山に霙降るなり
  入生田に寒緋桜を見に来しがま裸にして霙降りにき