天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

残暑の小田原

伝肇寺にて

 ヤンキースマリナーズの試合が午前11時から始まるので、それまでにメタボ予防の散歩にゆかねばならない。斉藤茂吉の歌集『石泉』を携えて小田原にゆく。もうすぐ読み終わる。この歌集からは、歌を作る契機について随分教わった。
小田原城の旧外堀に沿って小峰坂経由、ひさしぶりに伝肇寺を訪ねた。伝肇寺は北原白秋ゆかりの場所である。いままでに何度訪ねたことか。新潮社日本文学アルバム『北原白秋』で見る昔の面影など求めるべくもないが、唯一、右の写真のかやの木と地蔵尊の位置関係が当時のままである。


      打ち水にぢつと静まる猿のむれ
      還暦を越えたる象の残暑かな


  だみ声をしぼり出だせり首頭上下にふりて烏は啼くも
  本丸の跡に囲はれたゆたへる象のウメ子は還暦を越ゆ
  薪背負ひ本を読みゐる石像がむくげの花の陰に見えたり
  蓮池のほとりに葵むくげ咲き声をかぎりのつくつく法師
  若様の供に行き来の小峰坂二宮金次郎修学の頃
  書(ふみ)好きの武士の屋敷にたちよりて書借り読みし
  金次郎はや


  日盛りの運動場を走らせてコーチは坐る蝉鳴く木蔭
  愛憎の山荘に住み作詞せり「あはて床屋」も「かやの木山」も
  太枝はみな切り払ひあぢきなしかやの木下の古石地蔵
  黄色なる「みみづく幼稚園」のバス タイヤのそばに仔猫が
  ねむる


  山門を閉じたるままの伝肇寺はやまぼろしのみみづくの家