新緑の震生湖(2)
湖畔の売店付近に寺田寅彦の句碑がある。東京帝国大学地震研究所に勤務していた寺田教授が、昭和5年9月に震生湖に調査に訪れた際、詠んだ次の句。
山さけて 成しける池や 水すまし
句碑は、昭和30年9月1日に建立された。ちなみに寺田寅彦は、明治29年、熊本の第五高等学校に入学、そこで英語教師の夏目漱石と出会った。以後、二人が東京大学に奉職してからも文学の面で師弟関係にあり、寅彦は随筆や俳句に文筆の才能を発揮した。
丘陵の駐車場横には窪田空穂の次の歌の碑もある。
日あたりの若葉ほぐるる楢山にあな珍しやちごちごの花
書は息子の章一郎の手になる。翁草の花のことを信州では、ちごちごの花という。うつむき加減に咲く深い赤紫色の花である。信州出身の窪田空穂にとって、この花を東京郊外の渋沢丘陵で見かけたのが、大変珍しかったのだ。
たんぽぽや区画にのこす道祖神
山裂けて生れし湖寅彦が俳句に詠みし水すまし棲む
トタン屋根の小屋に鎮もる祠なり福寿弁財天ありがたき
ちごちごの花の歌碑読む丘の上に大震災の供養塔あり
峯坂に震災供養塔五つわが数ふればたんぽぽの花