天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

たたみいわし

腰越の浜にて

 義経が兄・頼朝から鎌倉に入ることを禁じられとどめ置かれた腰越のことは今までにも紹介した。義経・弁慶主従が宿泊したという満福寺には有名な腰越状の下書きがある。
 また、腰越の釣宿が提供するしらす料理は人気があり、店先に待ち人の行列ができる。浜では、たたみいわしを干している。たたみいわしは、カタクチイワシの稚魚を洗い、目の細かい網で漉いて天日干しした食品のこと。
海水浴客で混み合う片瀬・江ノ島海岸よりも、それを見下す満福寺の山上墓地に憩うことが好きである。


      蝉しぐれ日露戦勝紀念の碑
      しらす干す七里ケ浜の片隅は


  日曜の八月三日小田急江ノ島駅は人あふれたり
  ごみあまたうかべてにごる海面に釣糸垂るる葉月の漁港
  炎天下黒きシャツ着てかけてくる腰に錘をさげたる女
  しきつめて畳鰯を腰越の浜風に干す八月三日
  幾重にもたたみいわしを並べたり白波よする浜の片隅
  義経をここにとどめていたぶりぬ下書きのこる腰越之状
  訪ふ人を元気づけむと彫りにけむ「晴れ 笑顔」とふ墓碑銘
  はあり


  山上の墓地に憩へば聞こえくる海水浴に誘ふ楽の音
  大いなる楠の木蔭の病院は長患ひの人もあるらし