大凧の空
江戸時代に凧揚げは正月遊びの代表であったが、地方によっては5月のこどもの日を中心に大凧が揚げられたり、凧合戦が開催されたりする。昔の凧は烏賊の形に似ているところから、いかのぼりと呼ばれた。現在は奴凧、とんび凧、洋凧(カイト)など種類が豊富である。俳句では春の季語。
几巾(いかのぼり)きのふの空の有り所 蕪村
右に傾きひだりにかしぎのぼりつつ今はうごかぬ
わが紙鳶ひとつ 土岐善麿
広小路隈なくあさり求め得し大き凧なり源九郎義経
太田青丘
ゆつくりと浮力をつけてゆく凧に龍の字が見ゆ字は
生きて見ゆ 岡井 隆
いかのぼり空のものともなりゆかで狂ひくるめく
遠方(をちかた)にみゆ 馬場あき子
人体の錘りをつけて洋凧は大淀川のうえを飛ぶなり
吉川宏志
現代の大凧の例として、「相模の大凧まつり」の14.5メートル四方、重さ約950キロという日本一の八間凧がある。わが住む横浜市戸塚区東俣野の境川沿いの田んぼでも、五月の連休に毎年大凧揚げが行われる。
大凧に引きずられゐる漢(をとこ)かな
底知れぬ平成不況を睨みつけうなりて揚がる武者絵大凧
十人の大人が綱を引きて揚ぐ相州藤沢凧保存会
大凧の武者絵写すと電柱に拠りて構へし首痛きまで
地区ごとに日を決め揚ぐる大凧のうなり凄まじ相州の空
げんげ咲く田に大凧の綱ひきてリーマン・ショックを
のりきらんとす