天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

滝平二郎のきりえを詠む(2)

滝平二郎のきり絵から

 滝平二郎1921年― 2009年)は、茨城県出身の切り絵、版画作家である。1970年から1977年にかけて朝日新聞・日曜版に連載した独自の切り絵で広く世に知られるようになった。故郷の思い出らしき絵は、見る人誰にも共有できる懐かしい情景であり詩情にあふれている。


     獅子舞や柱の陰にそっと見る
     凧揚げや奴(やつこ)も龍も空に鳴る
     雪の道荷橇押し引く母子かな
     豆撒けば外覗きみる弟は
     囲炉裏からまゆ玉とって火傷した
     ねえちゃんと焼芋食べる丘の上
     梅の枝を手桶の水に浸したり


  農耕の馬の背中に跨って野中を行けば猫柳咲く
  母ちゃんと弟とゆくもらい風呂小雪のなかを提灯さげて
  金太郎、やつこも「龍」も空に鳴る丘に競ひて
  凧あぐる子等


  おじいちゃんが仕事場にこけし彫っているわたしは
  窓からそれを見ている


  豆を撒くわが後ろから恐る恐る外を見ている姉と弟
  切ってきた梅の小枝をねえちゃんは手桶の水に
  浸していたよ


  木の枝で川に落とした下駄拾う面白そうに弟が見る
  遅れてくる友に早くと手を振った卒業記念の写真撮影