ささがに
細蟹、笹蟹、蜘蛛などの漢字を当てるが、蜘蛛あるいはその網(い)のことである。形が小さい蟹に似ているところからきた呼称で、平安時代以降に使われた。いかにもゆかしい大和言葉である。
蜘蛛は、真正クモ目の節足動物の総称で、わが国には千種程度が生息するという。
くも何んと音(ね)をなにと鳴く秋の風
芭蕉
ひとり棲む母を侮り袋蜘蛛 福永耕二
蜘蛛の囲の大き雨粒旅はじまる 宇多喜代子
“・・・竈(かもど)には 火気(ほけ)ふき立てず
甑(こしき)には 蜘蛛の巣懸きて 飯炊(いひかし)く
事も忘れて ぬえどりの 呻吟(のどよ)ひ
居るに ・・・ “
和歌では、「ささがにの」は「くも」「いと」「いづく」「いかに」「いのち」などにかかる枕詞である。
吹く風につけても問はむささがにの通ひし道は空にたゆとも
新古今集・藤原道綱母
蜘蛛(ささがに)のいとかかりける身のほどをおもへば夢の
ここちこそすれ 新古今集・源俊頼
ささがにのくもであやふき八橋を夕暮かけて渡りかねぬる
玉葉集・阿仏尼
余念なく糸巻きつくるささがにの餌となりたる朝のカナブン