天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

包丁

台所にて

 『長谷川櫂全句集』(但し、2004年までの七句集)とその後の句集『新年』『富士』を読み返しているが、四季折々の食材や料理を詠んだ句が多いことに改めて気付かされる。例えば、料理に必要な包丁について、これらの句集を調べると、以下のような作品がある。


     研ぎあげて包丁黒し秋の空    『古志』
     包丁は水にて痛み椎の花     『天球』
     包丁は氷の音を蕪鮓       『天球』
     雪晴を映し包丁並びけり     『果実』
     初鮭の腹のしろたへ包丁す    『虚空』
     包丁にあらがふ玉の鮑かな    『松島』
     寒鯛の月のごときを包丁す    『初雁』
     包丁や氷のごとく俎に      『初雁』
     包丁を遊ばすごとく穴子裂く   『初雁』
     赤貝を花のごとくに包丁す    『富士』


「包丁す」とは、もちろん「料理する」ことである。
 ちなみに、料理に関する作法・故実や調理法などを、古来、包丁で象徴して「包丁式」と呼んでいる。由緒あるのは、平安時代から始まるとされる日本料理の四条流庖丁道であろう。その起源は、藤原山蔭(四条中納言)が、光孝天皇の勅命により庖丁式の新式を定めたことに由来するという。以来、いくつもの流派が発生した。鎌倉鶴岡八幡宮の舞殿においては、毎年、四条流包丁式が奉納される。以前に一度見学したことがあるが、見事な儀式であった。