泉(2)
俳句に詠まれた泉を、飯田龍太全句集と長谷川櫂全句集から集めて比較してみよう。
飯田龍太の場合:
鳴る泉未知が高価の青作家 『童眸』
真黒な牛の尻にも跳ぶ泉 『童眸』
顔の辺を深山泉の声とほる 『春の道』
草泉照れば諸木の齢古る 『山の木』
長谷川櫂の場合:
淋しさの底より湧ける泉かな 『初雁』
草の葉のみな揺れてゐる泉かな 『初雁』
大いなる輪の中に湧く泉かな 『初雁』
青き葉を浮べて揺るる泉かな 『初雁』
ギヤマンの珠ゆらぎゐる泉かな 『初雁』
両者の俳句の作り方の違いが如実に表れている。飯田龍太においては、当時の俳句作家の傾向を反映しているように感じる。即ち、表現意欲が漲り難解になることが多い。対して、長谷川櫂においては、肩肘張らず素直な分りやすい表現になっている。飯田龍太は長谷川櫂を高く評価していた。