天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

薄氷

横浜市の舞岡公園にて

 「うすごおり」あるいは「うすらい」と読む。春の季語。『川崎展宏句集』から拾うと次の5句がある。

     薄氷帰りは解くる伊賀の坂     『葛の葉』
     薄氷についと落ちたる煙草の火    『義仲』
     昼月は空のうすらひ伊賀に入る     『夏』
     薄氷の上にとどまり雪つぶて      『秋』
     薄氷をなぶらんとする棒の影      『秋』


また『山口誓子全句集』には次の三句が載っている。

     せりせりと薄氷杖のなすままに    『遠星』
     極く近く海を湛へて薄氷       『青女』
     出奔す田の薄氷のふち白し      『和服』


和歌に詠まれた例を捜してみた。

  きえかへりいはまにまよふ水のあわのしばしやどかる
  薄氷かな      摂政太政大臣新古今和歌集


  さほ川にこほりわたれるうすらひのうすき心をわが
  おもはなくに      紀 貫之『古今和歌六帖』


  山がはは春のうすらひとけにけりこころのどかに人ぞ
  つりける         藤原高遠『夫木和歌抄』


  春くればとくるこほりのうすらひにおとたて初むる
  谷河の水        姉小路顕朝『夫木和歌抄』


     薄氷に捕へられたる松葉かな
     薄氷や皇居に松の廊下跡