天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

早春賦―鎌倉十王岩―

建長寺の裏山にて

 鎌倉湖を経て北鎌倉の裏山を歩いた。度々来ているので特別の感慨はないのだが、建長寺の裏山にわずかながら大木があることに改めて驚く。今回は、鎌倉十王岩に注目した。江戸時代の地誌『鎌倉攬勝考(らんしょうこう)』に、嘯十王窟(「喚き十王」)として紹介されているらしい。夜毎不気味な音をたてていたことから、この名がついたという。十王岩からの展望は、「かながわの景勝50選」に入っている。ちなみに十王とは、冥府で死者を裁くという王のことで、秦広王初江王宋帝王・伍官王・閻魔王変成王太山府君平等王都市王五道転輪王 の十王を指す。(十王経


     きさらぎの湖鳥をねむらしむ
     紅梅の空に焼却場の塔
     馬の背の小道にのぞく春の湖
     春風や十王岩にくぬぎ立つ
     寒椿落ちたる赤を踏み躙る
     笹鳴や梅剪る音にまぎれたる
     紅梅のはぢらふ空の青さかな
     万作の花咲く奥に観世音
     舎利殿の闇深かうせり梅の花

     
  鎌倉の十王岩にのぼりきて那智山青岸渡寺の札見る
  松籟のさみしさに耐へ鎌倉の十王岩に佇みゐたり
  根を張れる大き欅の幹折れてその傷口に春の雪つむ
  きさらぎの風に吹かるるカンバスに冬の木立と方丈が見ゆ