天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鑑賞の文学 ―詩 篇(1)―

思潮社刊

 角川「短歌」2月号で、大特集「歌人岡井隆」を読んだ。作品論は参考になった。「私の岡井隆体験――好きな一首」の項では、小池光の文章「歌人の内なる詩人」に感動した。一つには、小池さんが好きな一首として


  ホメロスを読まばや春の潮騒のとどろく窓ゆ光あつめて


が、わが好みの一首と一致していたこともあるが、詩集『注解する者』(高見順賞)について、「この出来事は第二芸術論の最終決着を意味するものである。・・・・・・」というくだりである。歌人が最高レベルの詩を書いたことを賞讃している。小池さんは、当然、この詩集を読んだはずだから、私も早速アマゾンに注文して取り寄せた。読み始めてびっくり仰天した。ななんと、これは岡井隆の高度な読書鑑賞文あるいは評論であり、短歌や俳句についての考え方、さらには彼の私生活まで織り込んだような散文なのだ。とはいっても岡井特有の文章のリズムがあり、読みやすい。(ただし、句読点を全く使用せず、スペース(空白)を入れた章もあり、そこは意識して読む必要がある。)
 ページの各行の末尾をきっちり一直線になるように字を配列してある点が、目立つデザインだが、これを散文詩として提示したことに驚くのである。岡井隆のこれまでの文芸活動あるいは方法論が、無駄なく集約されていることを強く感じた。人生の一挙手一投足を文芸に昇華させたという印象を受けた。まことに深い啓示を与える詩集である。


(注1)ホメロスの歌は、小池さんのコメントでは、背後に西脇順三郎
   がいる、としているが、それは、詩集『Ambarvalia』の中の
   「ギリシャ的抒情詩」を指しているのだろう。教科書にもでて
   くるほど有名な詩らしいが、記憶にないので、いつか読み直して
   みたい。

(注2)『岡井隆の現代詩入門』の中に、詩集『注解する者』の構造を
   理解する手掛かりが書かれている。いくつか要約しておこう。
 * 近代日本では、表記の実験ですら、詩になる。詩観(詩に関
   する思想)すら、詩の風景になりうる。
 * 文字にあらわされて公表される詩は、文字の視覚的なデザイン
   やら、その組み合わせによって、微妙に修飾される。
 * 評論を書きながら、日記風の雑談をまじえるやり方は、岡井の
   書き癖みたいなもの。