天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

探梅(たんばい)

円覚寺・龍隠庵にて

 早梅を探って山野を歩きまわること。俳句では冬の季語で、傍題に「梅探る」「探梅行」がある。なんとも王朝風の優雅な行為である。ただ、名所の梅林を訪れるのとは、少し趣が異なる。名所の開花情報はインターネットで調べることができるので、探梅の雅は薄まる。


     探梅のこころもとなき人数かな   後藤夜半
     探梅や天城出て来し水ゆたか    飯田龍太
     探梅行紀州一国見下して      大島雄作


 熱海梅園では冬至梅や八重野梅が咲いていたので、二宮町吾妻山の麓・中里を訪ねたのだが、まったくの空振りであった。
 北鎌倉円覚寺境内には梅の木が多いが、ここもほとんどが固い莟のままであった。龍隠庵の庭の一木のみ白梅が五分咲きであった。黄梅院の庭には万作の花が咲いていた。
天気予報によれば、今年の梅の開花は、平年より15日、去年より31日も遅れているという。

     山里のつぼみは固し探梅行
     探梅やつぼみ固きに落胆す
     万作の花咲く朝の講話かな


  如月の十日すぎても梅の枝の莟は固くくれなゐ閉す
  如月の山駈けのぼる潮風に倒れ伏したる水仙の花
  石蕗の花枯れはてて絮あまた山のなだりにほほけて
  ゐたり


  きさらぎの吾妻山には老人と幼児がつどふ菜の花畑
  菜の花のかなたに雪の富士を待つ雲の晴れゆく如月
  の朝


  機関車の「桃太郎」が行く ところどころに貨物を
  載せて車輌つらなる


  如月のなかばになれどまだ咲かぬ北鎌倉の白梅の花
  山越しに朝日差したりちりちりと寒さに咲ける万作
  の花


  禅寺の庭の四隅に柏槙の老木立てり鎌倉の谷戸
  頼朝の墓を毀てる人ありと通報ありて捕へられたり