天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山桜(3)

鎌倉の山中にて

 最後に現代短歌から。俳句もあげておく。


     山又山山桜又山桜        阿波野青畝
     山ざくら陶師夫妻の遠会釈     飯田龍太
     花の中太き一樹は山ざくら     桂 信子
     日のありしところに月や山ざくら  鷹羽狩行
     山桜青淵に舟すべらせて      長谷川櫂


  植ゑつぐや老木若木の山ざくら空に繁(しじ)なる山の
  奥墓(おくつき)            窪田章一郎


  あたらしくことし逢ひたり行きゆきて上総(かづさ)鶴舞
  (つるまひ)の夕山ざくら        大塚布見子


  かの木にはその木の祈りありてこそかく咲きにけむ遠山桜
                     小野興二郎
  開発をまぬがれて咲く山桜燦爛たり声あらぬ祝祭
                      稲葉京子
  やまざくら散りゆく際を掌にうけてシテのごとくにわれは
  ふるまふ                長岡千尋


  やまざくら咲く夜の森わかものの背に凭(もた)れゐる死者
  たちが見ゆ               綾部光芳