天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

紅葉狩(14)

二宮町吾妻山にて

 師走も半ばになると紅葉も終りになる。二宮町の吾妻山に登ってみた。全山紅葉といった状態にはならないが、ところどころにすばらしく色付いたもみじの木を見ることができた。山頂には新たに枝垂れ桜の木が移植されていたので、来年の春が楽しみ。
なお、いつものように登山の前に梅沢海岸に寄って、茫然と伊豆の海や箱根の山並を眺めた。この海岸は、走水(浦賀水道)で入水した弟橘姫命の櫛が流れ着いたとされる場所。その櫛を祀ったのが山腹の吾妻神社である。


  ふた筋の飛行機雲はたなびきて師走の空にうすれ
  ゆくなり


  落葉の後の梢にくろぐろと腐れて枯れし石榴三つ四つ
  波音とともにはじくる朝の日の水面穏しき二宮の海
  砂浜に寄せて砕くる白波に足を浸せる朝の釣人
  さねさし相模の海の釣舟の奥にかすめる大島の影
  たまくしげ箱根の山は凸凹(でこぼこ)と師走の空を
  画してゐたり


  杖つきて浜に立ちたる老人は師走の沖の釣舟を見る
  新しき鳥居の下に横たはる地震(なゐ)に壊れし旧き石組
  ふもとから湧き立つ雲にとりまかれ師走の朝を富士は
  かがやく


  葉裏より紅葉を見れば極月の朝の光に朱は透きとほる
  この年の見納めなるか黄葉の林の中にわれは佇む
  黄葉の木立の中にこの年のいきどほろしき事も思へり
  断層の網目なしたるこの国にあるはずもなき原発の余地
  頼朝の肖像といひ国宝になりたる画布に疑義生じたり