天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

初夏(2)

藤沢市新林公園にて

 小田原城の濠の辺にある「御感の藤」は、花房が垂れると見栄えがする。今年もまだ咲いているかと見に行ったのだが、なんと無惨にも全部刈り取られていた。花が散り始めて蔓だけが伸び始めると一気に剪定にかけられるのである。藤棚は散髪した後のようにさっぱりした情景に変わっていた。花後の剪定は、内部まで全体に日が当たる様に枝を整理し、花芽形成を促す、というのが藤の育て方らしい。桜と違って、藤の花を見に行く時には、時期をよく確かめることが肝要。


     さくら散る二宮尊徳翁之像
     銅版に役者の手形さくら散る
     目高入る溺れかかりし長靴に
     構内は駅弁大会子供の日
     巫女が守る報徳神社樟若葉
     樟若葉報徳神社を明るくす
     鯉が跳ねまた跳ね池の若葉光


  風神が花見せし後 自棄酒を飲みて坐れる祭の幹事
  古民家の庭に掲げし鯉幟卯月の森の風に泳げり
  葉桜の奥津宮には亀石と力石あり幣に囲める
  亀石と力石見てさくら散る道を歩めば竜宮(わだつみのみや)
  アベックの名前書きたる錠前が龍恋の鐘の鉄柵に垂る
  封を切り薫りを嗅げり愛飲の選択肢なるカナディアン・クラブ
  鳥の巣と見紛ふほどのかたまりは欅若葉の中の寄生木
  花ちりし後の藤の枝伐られたり御感の藤の棚あらはなる
  犬小屋に日がな一日寝そべりて通行人を眺め暮らせり