梅雨の歌(1)
中国では、黴(かび)の生えやすい時期の雨ということで、「黴雨(メイユー)」と呼ばれていたが、そのうちに梅が熟れる時期でもあり、同音の「梅雨」と表記されるようになったという。「黄梅雨」もよく用いられる。わが国には江戸時代に伝わった。それまでは和歌や俳諧では、五月雨が使われていた。江戸時代のいつ頃かは、定かでない。芭蕉の句には梅雨は出てこない。「梅雨」が盛んに用いられるようになるのは、大正以降という。
わらうてはをられずなりぬ梅雨の漏 森川暁水
さよならと梅雨の車窓に指で書く 長谷川素逝
ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき 桂 信子
検温器かけてさみしく涙ぐむ薄き肌あり梅雨尽きずふる
北原白秋
海辺にも水鶏のなきて日の暮はあはれなりけり梅雨に入るころ
中村憲吉
惑ひつつ梅雨ふかき道にいでてきつわが妻襤褸子らも襤褸
宮 柊二
膝に置くわれの両の手非力者の静脈浮きて梅雨大雨くる
鈴木幸輔
梅雨くらき窓ぎはに布は垂れしまま肉放たれて娼婦は眠る
服部直人
梅雨ふけて思想なき蟇のだらしなく裏返りたればわが憎みけり
前川佐美雄