天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ベンチ(1)

近所の公園にて

 古くは背もたれのない腰掛け用の台を意味したらしい。今では横に長い椅子の形状をした腰掛けをさすことが普通である。ベンチは、公共の広場、公園、待合室、駅のプラットホーム、個人宅の庭 などといった場所に置かれている。


  見るとなくベンチの男を見てゐるに擦りてもすりてもマッチ
  はつかぬ                 大西民子


  俄なる惧(おそ)れをもちて人なかにベンチのあれば腰を
  おろしぬ                 片山貞美


  このベンチわれの傍(かたへ)のあきたるぞ茶色の犬よこちへ
  来(こ)こちへ来              安田純生


  川岸のベンチに動かざる老いとその杖つつむ冬のひかりは
                       小高 賢
  橙(とう)の色に染まる噴水の地下街のベンチに人は憩わん
  と倚る
                       武川忠一
  労働に疲れ果てたる手袋が捨てられてあり駅のベンチに
                       伊勢方信