人参(1)
欧州、北アフリカ、中央アジアが原産地といわれるセリ科の一、二年草で、花は小形・白色。胡蘿蔔(にんじん)とも書くが、胡は外来種を意味し、蘿蔔は大根やスズシロのことである。わが国には、十六世紀に中国から渡来した。食用にされるものには、長根(東洋系)と短根(西洋系)とがある。
土の上すきまなくおほふ胡蘿蔔(にんじん)の霜に染まりし
葉は色更(か)へぬ 岡 麓
時雨空くもりて暮るる畠みち胡蘿蔔を見てたちとまりたり
岡 麓
来(きた)りて人参まきし五月(ごぐわつ)より秋のすがれと
なりにけるかも 土屋文明
にんじんは明日蒔けばよし帰らむよ東一華(あづまいちげ)の
花も閉ざしぬ 土屋文明
暑き日の照る日のころとすなはちにかさ指し開く人参の花
長塚 節
明けくれの貧しき吾と思ふなり人参の花ここにも咲きて
佐藤佐太郎
ほのぼのと夕べの靄は草にたち拾ひし人参をさげつつ帰る
清水房雄
種馬かとほきところをみつめつつはりはりと冬の人参噛める
塚本邦雄