天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雲のうた(19)

秋の雲

 以下にあげるそれぞれの作品は、目前の景色と心情とがよく融合していて、現代人にも共感を呼ぶだろう。ただ「雲のはたての夕暮の空」や「行方もしらぬ空のうき雲」といった表現は、もはや気恥かしくて現代短歌には使えない。


  山里の嶺のあま雲とだえして夕べ涼しき槙のした露
                  後鳥羽院新古今集
  なき人の形見の雲やしぐるらん夕べの雨に袖はみえねど
                  後鳥羽院新古今集
  ながめ侘びそれとはなしに物ぞ思ふ雲のはたての夕暮の空
                  源 通光『新古今集
  我が恋は逢ふをかぎりのたのみだに行方もしらぬ空のうき雲
                  源 通具『新古今集
  さもあらばあれ暮れ行く春も雲の上に散る事しらぬ花し匂はば
                  源 経信『新古今集
  都より雲の八重だつおく山の横川(よかは)の水はすみよかるらん
                  村上天皇新古今集
  夕なぎに門渡る千鳥波間より見ゆる小島の雲に消えぬる
                 徳大寺実定『新古今集
  君があたり見つつををらん伊駒山雲なかくしそ雨はふるとも
                 読人しらず『新古今集


[注]右上の画像は、
     「徒然ピータン・秋の雲の種類特集」
      http://h-mahoroba.net/?p=1204
   から借用した。