この世のこと(11/16)
わが庵は小倉の山の近ければうき世をしかとなかぬ日ぞなき
新勅撰集・八条院高倉
*しかと: はっきりと。「鹿と」を掛ける。
「私の住む庵は小倉山が近いので、憂き世を悲しみ、鹿といっしょに声あげて泣かない日はないよ。」
君かくて山の端深く住居せばひとりうき世にものや思はむ
うらやまし草のむしろを敷き忍びうき世に出でぬ雪の山人
続後撰集・藤原光俊
積れただ入りにし山の峰の雪うき世に帰る道もなきまで
続千載集・頓阿
*「ひたすら積もれ、出家して入った山の頂に降る雪よ。浮世に帰る道もなくまるまで。」
夏山の繁みにはへる青つづらくるしやうき世わが身一つに
万代和歌集・後鳥羽院
*青つづら: ツヅラフジの別名。「つる」を繰るところから「くる」「くるし」「くるる」などを導く序詞を構成する語。
うき世にはかかれとてこそ生れけめことわりしらぬわが涙かな
*「このように辛い目に遭えということで、この現世に生れて来たのだろう。そう納得して苦難に堪えるべきなのに、分別もなくこぼれる我が涙であることよ。」