平安・鎌倉期の僧侶歌人(17/17)
参考(続)
なによりは舌ぬく苦こそ悲しけれ思ふことをも言はせじの刑(はた) 聞書集・西行
*地獄絵、すなわち地獄に堕ちた罪人が責め苦を受けるさまを描いた絵を見ての作。
他に4首あり。地獄絵を主題とした歌には和泉式部の先例がある。
葛城(かづらき)や高間の桜咲きにけり立田の奥にかかる白雲 新古今集・寂蓮
*白雲:山桜を白雲に喩える。
なぐさむる友なき宿の夕暮にあはれは残せ荻の上風 三百六十番歌合・寂蓮
*荻の上風:荻をざわめかせる風は擬人化され、訪問者の暗喩として用いられた。
かささぎの雲のかけはし秋暮れて夜半には霜やさえわたるらむ 新古今集・寂蓮
*かささぎの雲のかけはし:『淮南子(えなんじ)』などに見える中国の伝説に由る。
これや此のうき世のほかの春ならむ花のとぼそのあけぼのの空 新古今集・寂蓮
*あけぼのの空:「(とぼそを)開け」の意を掛ける。
散りはてて花のかげなき木(こ)のもとにたつことやすき夏衣(なつごろも)かな
新古今集・慈円
*たつことやすき:本歌からして、「立ち去ることも気安い」の意であろう。
「裁つこと易き」を掛け、「夏衣」につなげている。本歌は、
けふのみと春を思はぬ時だにもたつことやすき花の陰かは 古今集・凡河内躬恒
おほけなくうき世の民におほふかなわが立つ杣に墨染の袖 千載集・慈円
*墨染の袖:僧衣の袖。墨染に「住み初め」を掛ける。
とく御法(みのり)きくの白露夜はおきてつとめて消えむことをしぞ思ふ
新古今集・慈円
*きく:菊・聞くの掛詞。 おきて:置きて・起きての掛詞。
白雪のふりぬるわが身いつまでかのこりて人の跡をとはまし 草庵集・頓阿
*「白雪の」は「降り」から同音の「古り」を導く枕詞。また「のこり」「跡」は
雪の縁語と言える。
さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける 古今集・紀貫之
*桜の花びらを浪になぞらえ、水のない空に浪が立っているという。見立ての歌。
秋風にこゑを帆にあけてくる舟は天のとわたる雁にぞありける 古今集・藤原菅根
*雁が舟に見立てられている。