千鳥のうた(3/6)
かぜ吹けばよそになるみのかたおもひ思はぬ浪になく千鳥かな
新古今集・藤原秀能
*「よそになる身」、「鳴海の潟」、「片思ひ」がそれぞれ掛けられている。
即ち、「風が吹き、遠くに吹き流された身(鳴海)は、番いから引き
離され(片思い)、鳴海潟を思いつつ(潟を思い)、思いもよらない
外海の波の上で鳴いている、その一羽はぐれた千鳥よ。」
夕なぎに門(と)渡(わた)る千鳥波間より見ゆるこじまの雲に消えぬる
新古今集・藤原実定
月ぞ澄むたれかはここに紀の国や吹上の千鳥ひとり鳴くなり
新古今集・藤原良経
*「紀」と「来」が掛けてある。「月が澄んでいる。ここは紀伊の国吹上の浜。
誰がこの地を訪ねて来てくれようか。千鳥一羽だけ鳴いているだけ。」吹上は、
和歌山市西南部から紀ノ川河口一帯の地をさすらしい。
浦人のひもゆふぐれになるみがたかへる袖より千鳥なくなり
新古今集・源 通光
*「ひもゆふぐれに」は、「日も夕暮に」に「紐結ふ」を掛け、袖の縁語
としている。また「ゆふぐれになる」と「なるみがた」とが掛かり合う。
鳴海潟は、名古屋市緑区あたりにあった入江。新古今集の典型的技法。
なお先行して古今集には、「唐衣ひもゆふぐれになる時は返す返すぞ人は
こひしき」(読み人しらず)がある。
月の澄むむみおや川原に霜冴えて千鳥とほ立つ声きこゆなり
山家集・西行
岩こゆるあらいそ波にたつ千鳥こころならずや浦づたふらむ
千載集・道因
わが君にあふくま川のさよ千鳥かきとどめつるあとぞうれしき
拾遺愚草・藤原定家
鳴く千鳥袖のみなとをとひ来(こ)かしもろこし舟もよるの寝覚めに
拾遺愚草・藤原定家
*「自分の袖を夢の港に定めて、千鳥や唐への船が寝覚めに訪れたか」という。