副詞―個性の発現(3/11)
四俳人に共通な副詞
四俳人(芭蕉、蕪村、一茶、展宏)が共に用いた副詞は、「また」「まだ」「まづ」「やがて」「ほろほろ」の五種であり、驚くほど少ない。それぞれについて使用例をあげよう。以下、作品の中の副詞に傍線をつける。
「また/又」の場合: 同じ事柄、事態が繰り返されることや「その上に」、「それにつけても」の意味を表す。
冬籠またよりそはん此(この)はしら 芭蕉
きのふ暮けふ又くれてゆく春や 蕪村
屁くらべが又始るぞ冬篭(ごもり) 一茶
またまゐりました唐招提寺秋 展宏
いずれも再び、あるいはもう一度の意味に使っている。
「まだ」の場合: 状態・段階・程度に至っていないさま、なお残りのあるさま、ある状態・行為が継続しているさま、「むしろ」「さらに」「たった」などを表す。
見る影やまだ片なりも宵月夜 芭蕉
旅人の鼻まだ寒し初ざくら 蕪村
鶯や家半分はまだ月夜 一茶
百千鳥月まだ色をうしなはず 展宏
いずれも「いまだに」の意味に使っている。
「先/まづ」の場合: 順序(第一に、ともかく)や「おおよそ」さらに打消しの語を伴って、「ほとんど」などを意味する。
先(まづ)たのむ椎の木も有(あり)夏木立 芭蕉
嵯峨寒しいざ先(まず)下(くだ)れ都鳥 蕪村
山吹や先(まづ)御先(おさき)へととぶ蛙(かはづ) 一茶
西湖まづ覚め万緑を目覚めしむ 展宏
芭蕉句は「何はともあれ」、他は「第一に」「さきに」の意味。
「頓/やがて」の場合: 事態の接近、将来の発生を表す。
頓(やが)て死ぬけしきは見えず蝉の声 芭蕉
雨晴て頓(やがて)光(ひかる)やさし柳 蕪村
我上(わがうへ)にやがて咲(さく)らん苔の花 一茶
涅槃像上へ上へとやがて雲 展宏
いずれも「そのうちに」の意味に使っている。
「ほろほろ」の場合: 小さく軽いものが、音もなく続いてこぼれ落ちる様子、また
鳥の鳴く声や羽音を表すオノマトペである。
ほろほろと山吹ちるか滝の音 芭蕉
ほろほろと啼く山鳥や露の珠(たま) 蕪村
昼比(ごろ)やほろほろ雉(きじ)の里(さと)歩き 一茶
薄き羽ほろほろもつれ梅雨の蝶 展宏
蕪村句は鳴き声を表す擬声語。他は状態を表現する擬態語。
もちろん、この内の三人あるいは二人に共通な副詞とすれば、その種類は増える。そのことを一茶と展宏について、次に見てみよう。