天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

副詞―個性の発現(4/11)

岩波文庫から

一茶と展宏に共通の副詞
一茶と展宏はオノマトペを新たに開拓し、盛んに用いた俳人だが、この二人に共通なオノマトペを調べてみると、つぎのようなものがある。かなり多いが、それぞれに全ての句を示す。
「くるくる」
  猫の子のくるくる舞(まひ)やちる木の    一茶
  コスモスの一つくるくる慰霊塔       展宏
一茶句は、猫の子が同じ処を回っている様子。展宏の句は、コスモスの一輪の花がくるくる回る風車の風情であることを詠んだもの。
「さらさら」
  陽炎(かげろふ)にさらさら雨のかかりけり  一茶
  さらさらと砂の雲出て秋の冷        展宏
両者ともかなり特殊な情景に注目している。
「ちらちら」
  灯ちらちら疱瘡小家(ほうさうごや)の雪吹(ふぶき)哉   一茶
  灯ちらちらどのかほつきも夜寒かな           一茶
  生(なま)あつい月がちらちら野分哉           一茶
  雪ちらちら一天に雲なかりけり             一茶
  牡蠣船を赤い襷のちらちらす              展宏
  散るときの来てちらちらと梅桃(ゆすらうめ)       展宏
光が細かくきらめくさま、物の降り散るさまのいずれかを表現している。
「つい」
  鳫(かり)下(お)りてついと夜に入る小家(こいへ)哉    一茶
  加賀どのの御先(おさき)をついと雉(きぎす)哉      一茶
  はつ螢ついとそれたる手風哉              一茶
  薄氷についと落ちたる煙草の火             展宏
  雪解富士銜へ煙草をついと立て             展宏
「思わず」、「なんの気なしに」とか、時間・距離の隔たりが少ないさまで、動作が突然あるいは素早くなされる、まっすぐにのび出る などの様子である。
「つやつや」
  つやつやと露のおりたるやけ野哉    一茶
  寒椿鍋つやつやに磨いてゐるか     展宏
  石蕗の葉のつやつやとして年の内    展宏
植物の場合には、新鮮でみずみずしい感じのつやであり、金属では表面に汚れやくもりがなく光っている様子を表す。
「どんど」
  どんど焼どんどと雪の降りにけり    一茶
  人影は見えずどんどと雪おろす     展宏
一茶句では、どんど焼の情景とおやみなく降る雪の情景と両方にかかっている。展宏句では、屋根から雪を大量に地面に落とす際の音を表している。いずれも勢いのさかんな様子。
「はらはら」
  山やくや眉にはらはら夜の雨          一茶
  ただ頼め花ははらはらあの通り         一茶
  蝉鳴(なく)や赤い木葉(このは)のはらはらと   一茶
  涼しさや切紙(きりがみ)の雪はらはらと     一茶
  はらはらと一笑の寺玉あられ          展宏
  はらはらと洞(うろ)へ花びら老桜        展宏
  身の内にはらはら散るや桐の花         展宏
いずれも、小さくて薄いものが間断なく散ったり降ったりする様子である。