天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

副詞―個性の発現(5/11)

浮草

「冷々」
  冷(ひや)々と袖に入る日や秋の山       一茶
  冷(ひや)々と日の出(いで)給ふうしろ哉    一茶
  八重桜日差が胸にひえびえと         展宏
  昭和経し身に冷え冷えと夕桜         展宏
「ひやひや」「ひえびえ」の意味はいずれも、冷たさ・寒さを肌に感じさせる様子であるが、音感の面からは、前者には余裕のある軽味があり、後者には深刻味がある。
「ひらひら」
  萍(うきくさ)や黒い小蝶のひらひらと     一茶
  荻の葉にひらひら残る暑(あつさ)哉      一茶
  鉄漿蜻蛉(おはぐろ)のひらひら翅の四枚かな  展宏
一茶の小蝶句や展宏の蜻蛉の句では、小さい物や薄い物が翻る様子を表現している。一方、一茶の荻の葉句では、ひらひらする葉っぱに残る暑さを重ねている点に工夫がある。
「ふはふは」
  初雪のふはふはかかる小鬢哉         一茶
  塵の身もともにふはふは紙帳(しちやう)哉   一茶
  ふはふはと春の雪降る大ぼとけ        展宏
雪については、軽やかに漂うような様子を表す。一茶の塵の身の句では、浮ついて頼りないという負の意味が入っている。
「ぽつ」
  東西の人がほぽつと花火哉          一茶
  ぽつと桜ぽつと桜の端山かな         展宏
一茶句では、花火が上がるたびに近隣の人の顔が明らむ一瞬の様子である。展宏句では、そこここに咲き始めた桜の花の情景を表した。
「リンリン/りんりん」
  リンリンと凧上りけり青田原           一茶
  りんりんと青筋揚羽蝶(あをすぢあげは)たち放水  展宏
一茶句は、風を切って空にあがる凧の勇壮な様子を、また展宏句は蝶の放水(放尿)の勢いの良さを表現している。