天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

夢を詠う(16)

マンゴスチン

  眠りつつ髪をまさぐる指やさし夢の中でも私を抱くの
                   俵 万智
  星をもぐ女が夢にあらわれてマンゴスチンひとつ置いて
  ゆきたり             俵 万智


  この靴は濡らせないから花束は夢の渚に置いてゆきます
                   佐古良男
  くらぐらと雨降る音すあかつきの夢のつづきの海(かい)
  嶺(れい)を追ふ          宮 英子


  掌(て)の上に寄り来るメダカ一尾ゐてさみしき夢の水際
  (みぎは)なりにき         渡辺仁八


  まさをなる芭蕉は夢のごとく立ち無為の扇をかざす木枯らし
                   前川斎子
  ゆめのなか握りこぶしで痛くなるまでつかんでいたのは何か
                   高瀬一誌
  たちまち及びもつかぬところまでゆくこの頃の夢の在り方
                   高瀬一誌


俵 万智の二首目: 夢の中で、星がマンゴスチンに変ったということか。
佐古良男の歌では、花束を渡す相手は海上にいるようだが、夢がどこまで関わっているのか解釈に戸惑う。
宮 英子は、あかつきに一度目覚めてからまた眠って夢の続きを見たのだろう。
前川斎子の歌で、「無為の扇」とは、「まさをなる芭蕉」の言い換えであろうか。
高瀬一誌の歌は二首ともに破調だが、意味はよく分かる。