夢を詠う(15)
ヘイ・バード僕ら翔べない鳥だから彼(か)は誰(た)れどきの
夢を見るのさ 白瀧まゆみ
かの時の子よりもうすき肩なりきむずと掴みし夢の中の子
安部洋子
日曜の朝(あした)の夢に少女なるわれは野球のボールに
衝(う)たれき 花山多佳子
女なること忘れをりしが夏たけて鯉魚(りぎよ)たり夢に濃き
やみを泳(ゆ)く 馬場あき子
いのち深くあたたかきところにをとめごのゆめありしこと
しだいに忘る 馬場あき子
夢を見てゆめより覚めてほのかなる花の薫りの闇のなかなり
甲村秀雄
夢といえど夢のほかなるもの見えぬこの世の闇に散るちる桜
大下一真
花開くまで世話したし 僕たちの「夢」という字は永遠に
草かんむり 田中章義
一首目: ジャズミュージシャンのチャーリー・パーカー(通称バード)に題をとったという。岡井隆の「ヘイ龍(ドラゴン)カム・ヒアといふ声がするまつ暗だぜつていふ声が添ふ」の影響か。白瀧まゆみは岡井隆に師事していた。
二首目は「むずと掴みし」がサディスティックな印象を与える。
馬場あき子の歌は二首ともに女としての自覚の変容を詠んでいるようだ。
大下一真の歌は、禅宗の僧侶らしい詠み方。
田中章義は、美しい夢がなかなか現実にならない、でも大切にしたい、ということを詠んでいる。