天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

幻想の父(7/12)

歌集『感幻樂』

■父と子の体の接触から男色のホモセクシャルな感覚が芽生える。それを詠んだところにも塚本邦雄の独自性がある。
 うす暗くして眩しけれ父と腕觸る満開の蝙蝠傘(かうもり)の中
                       『驟雨修辞学』
父と息子が一つ開いた蝙蝠傘のうす暗い中で裸の腕を触れ合っている。このホモセクシュアルな感触に子は敏感に反応している。
 父よ汝(な)がいたき愛撫の掌(て)を待ちて柩のなかのわれの舟唄
                        『水銀傳説』
子が先に死んで柩の中にいる。父は何故俺より先に逝くのだと嘆いて、子の亡骸をたたく。子はそんな情景を思い描いて舟唄を口ずさむ。
 少年の茎立(くくだ)ちの腿父に触る瑞西(スウイス)の夏のあゐのゑはがき
                         『感幻樂』
スイスの夏の景色の絵葉書を、少年と父が並んで見ているのだろう。少年の青白く細長い腿が父の腕か脚かに触れているのだ。