天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

幻想の父(8/12)

歌集『泪羅變』

■父の病気、老い、死などを詠んだ歌
 宿題は緑の薔薇の花式圖と父が身投ぐるまでのいきさつ
                       『歌人
花式図は花の模式図のことで、 花を構成する萼片・花びら・雄蕊・雌蕊・蜜腺などの配置を模式図に表わしたもの。緑の薔薇の模式図を描くことと父の身投げのいきさつを書くことが宿題なのだ。対比が衝撃的。
 質実剛健なりける父が晩年に選りにも選つて虹彩
                      『詩歌變』
虹彩炎は、外傷、ウイルス感染、アレルギーなどが原因らしい。質実剛健だった父が晩年に虹彩炎にかかった、何故だ?作者は虹彩炎の原因を特殊なウイルス感染と思っているようだ。
 額の花いつ終りけむ父はいつ男ならざるものとなりけむ
                       『波瀾』
作者六十八歳頃の歌。実の父は四十二歳でなくなっているので、男性機能を失った父とは塚本邦雄自身のことかも知れない。
 花菖蒲祝出征の幟(のぼり)のみおもひだすアルツハイマーの父
                      『泪羅變』
アルツハイマーになってしまった父が思い出すことと言えば、ただ一つ。花菖蒲の頃、戦場へ出かける時、みんなが幟を立てて祝ってくれたこと。戦争に対する怨念の歌である。