天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

俳句は取合せ (3/10)

芭蕉の「さみだれ」13句   堀信夫監修『芭蕉全句』(小学館)による。
 ほぼ年代順にあげてみる。
  五月雨に御物遠(おんものどほ)や月の顔     
季語=五月雨、取合せ語=月の顔、連結語(とりはやし)=御物遠
「御物遠」は「ごぶさた」を意味する挨拶言葉。五月雨のせいで、月を見ることがない(ごぶさたしている)。至極もっともな表現・取合せ。
  五月雨も瀬ぶみ尋(たづね)ぬ見馴河(みなれがは)
季語=五月雨、取合せ語=見馴河、連結語(とりはやし)=瀬ぶみ尋ぬ
増水している見馴河に五月雨も雨脚を踏み入れて浅瀬を探していたという(擬人法)。
  五月雨や竜灯(りゆうとう)揚(あぐ)る番太郎(ばんたろう)
季語=五月雨、取合せ語=番太郎、連結語(とりはやし)=竜灯揚る
五月雨の日暮れ、番太郎(辻番)がともした灯が、竜灯(海中の燐光)のように見える、という(比喩)。
  五月雨に鶴の足みじかくなれり
季語=五月雨、取合せ語=鶴の足、連結語(とりはやし)=みじかくなれり
降り続く五月雨で水嵩が増して、水中に立つ鶴の足が短くなってしまった。
  五月雨や桶の輪きるる夜の声
季語=五月雨、取合せ語=夜の声、連結語(とりはやし)=桶の輪きるる
五月雨の降る夜に桶のたがが切れる音がした、という。桶が声をあげたような錯覚を覚える。
  五月雨に鳰(にほ)の浮巣(うきす)を見に行(ゆか)む    
季語=五月雨、取合せ語=鳰の浮巣、連結語(とりはやし)=見に行む
笈の小文』の旅に出る前の予告として、弟子に見せた句らしい。五月雨の琵琶湖でカイツブリを見ることを楽しみにしている気分である。
  五月雨にかくれぬものや瀬田の橋
季語=五月雨、取合せ語=瀬田の橋、連結語(とりはやし)=かくれぬもの
琵琶湖周辺が五月雨に降り込められて見えない中で、ただ瀬田の長橋だけが隠されないで見えている、という。
  五月雨は滝降(ふり)うづむみかさ哉   
季語=五月雨、取合せ語=みかさ、連結語(とりはやし)=滝降うづむ
降りしきる五月雨の水量にせいで、滝さえ埋めてしまうほどだという。

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鳰の浮巣 (webから)