果物のうたー柿
世の人はさかしらをすと酒のみぬあれは柿くひて猿にかも似る
正岡子規
*大伴旅人の万葉集の歌「あな醜 さかしらをすと 酒のまぬ 人をよく
見ば猿にかも似む」を踏む。旅人は酒を飲まない人をくさしているが、
子規は偉ぶって酒を飲む人と柿を食う自分とを対比している。なお、
「あれは」は「我は」に同じ。
縁さきに干したる柿に日短し郵便配り食べて行きけり
島木赤彦
家毎に柿吊るし干す高木村住み古りにけり夢のごとくに
久保田不二子
*久保田不二子は、島木赤彦(本名:久保田俊彦)の妻。「アララギ」に入会。
大正15年赤彦と死別し、以後郷里の長野県下諏訪町にすんで,素朴な写生風
の歌をよんだ。
やまでら の ほふし が むすめ ひとり ゐて
かき うる には も いろづき に けり
会津八一
捨てし種芽生えし柿に接木(つぎき)して柿のなるまで住みつきにけり
土屋文明
柿のこずゑ二木(ふたき)つらなり青き実は日のをりをりにこもごもに落つ
柴生田稔
柿のつめたき 柿のおもたき なべては柿の朱のためならむ
葛原妙子
皿のうへに熟柿一顆はおのが為おとろへし歯の救ひとぞして
清水房雄
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
つまらなく夫婦の膝の柿二つ 石川桂郎