決壊や秋を埋める泥の海 長谷川櫂
*まさしく令和元年の秋に台風15号や19号が来て各地の河川が決壊、家もたんぼも道路も泥の海と化した。優雅な秋の風情などなくなってしまった。
秋風のひとりを降ろす扉かな イーブン美奈子
*乗り物からドアを開けて、ひとり秋風の中に降り立った情景であろう。
母と選る振り売りの花盆用意 潮 伸子
*「振り売り」は、棒手振 (ぼてふり) ともいう。店を構えず,町々を商品の名を大声で呼びながら売歩いた行商人をさす。行商人からお盆用の供花を母と一緒に選んでいる場面。
勝山や白亜紀からの秋の風 鬼川こまち
*2013年に福井県勝山市にある白亜紀前期の地層(約1億2000万年前)から、鳥のほぼ全身の骨格化石が見つかった。新種と確認されたらしい。
出水して泥の中なる残暑かな 川辺酸模
からまつの小径を秋の来たりけり 喜田りえこ
病妻の息たしかむる良夜かな 竹野いさお
*俳句の良夜は、中秋名月の夜を意味する。「息たしかむる」がなんとも切ない。
この秋は金属の骨入りけり 長井はるみ
*手術して金属の骨を入れたのだ。すさまじい生き様に感じる。
睡蓮の花のすき間に鯉の口 野田 江
跡形も無きふるさとへ帰省かな 藤 英樹
*幼少のころは田舎に育ったが、その後都会に生活の基盤ができて、田舎の祖父母も亡くなると家屋はすべて取り壊してしまう。そんなふるさとへ墓参りに帰省したのであろう。
弓なりの国に残れる暑さかな 松本よしを
*「弓なりの国」とは、日本列島をさす。気宇壮大な句がら。