天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

「古志」令和元年十二月号から(3/3)

     決壊や秋を埋める泥の海       長谷川櫂
*まさしく令和元年の秋に台風15号や19号が来て各地の河川が決壊、家もたんぼも道路も泥の海と化した。優雅な秋の風情などなくなってしまった。

     秋風のひとりを降ろす扉かな  イーブン美奈子
*乗り物からドアを開けて、ひとり秋風の中に降り立った情景であろう。

     母と選る振り売りの花盆用意     潮 伸子
*「振り売り」は、棒手振 (ぼてふり) ともいう。店を構えず,町々を商品の名を大声で呼びながら売歩いた行商人をさす。行商人からお盆用の供花を母と一緒に選んでいる場面。

     勝山や白亜紀からの秋の風     鬼川こまち
*2013年に福井県勝山市にある白亜紀前期の地層(約1億2000万年前)から、鳥のほぼ全身の骨格化石が見つかった。新種と確認されたらしい。

     出水して泥の中なる残暑かな     川辺酸模
     からまつの小径を秋の来たりけり  喜田りえこ
     病妻の息たしかむる良夜かな    竹野いさお
*俳句の良夜は、中秋名月の夜を意味する。「息たしかむる」がなんとも切ない。

     この秋は金属の骨入りけり     長井はるみ
*手術して金属の骨を入れたのだ。すさまじい生き様に感じる。

     睡蓮の花のすき間に鯉の口      野田 江
     跡形も無きふるさとへ帰省かな    藤 英樹
*幼少のころは田舎に育ったが、その後都会に生活の基盤ができて、田舎の祖父母も亡くなると家屋はすべて取り壊してしまう。そんなふるさとへ墓参りに帰省したのであろう。

     弓なりの国に残れる暑さかな    松本よしを
*「弓なりの国」とは、日本列島をさす。気宇壮大な句がら。

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睡蓮