天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

「古志」令和元年十二月号から(2/3)

     この夏は天の川辺も暑からん     坂本初男
     大鯰下げてのつしと白絣      喜田りえこ
     舟虫の訪ねて来たる朝湯かな     田村史生
*海岸縁の温泉宿に泊まって朝湯に浸っている情景。

     鳴きながらもらはれてゆく籠の虫  斎藤真知子
*籠の虫が鳴くのは、気分が良いからであろう。しかし上五中七となると、あたかも虫が悲しんで泣いているように思われる。

     朝霧を走り抜け出る岬馬      石田てい子
岬馬というと、通常は、宮崎県の都井岬付近で、半野生状態で生息する小形の馬を差す。この句も朝霧の立ち込めた都井岬の情景を詠んでいるのだろう。

     たましひを蟻が持ち去る骸かな    沙海 悠
     台風の来るてふ空の青さかな     伊藤涼子
     言ふならば茶飲み友達目高飼ふ    曽根康夫
     刃を入れて抜き差しならぬ南瓜かな 遠野ちよこ
*大南瓜を包丁で切ったことのある人なら誰でも経験したこと。

     空裂けてだだ漏りになる雷雨かな   近藤沙羅
     稲妻のごとき一本武道館      水谷比嵯代
*柔道か剣道か、どちらでもよさそうだが、瞬時に技が決まったのだ。

     法師蝉言ふ事聞かぬコンバイン    松下冨子
*コンバインは、刈り取り・脱穀・選別を、1台で同時にできる農機具のこと。その調子が悪い。近くの森でつくつくほうしが鳴いている。

     出番来てすつくと立てる案山子かな  眞田順子
*稲穂が出る時期になると案山子がそこここに立てられる。案山子の身になって詠んだ擬人法。 

     秋雷や暇きり出すきつかけに     𡈽谷良子
*暇とは、ひま、休暇のことで、通常、職務をやめることや離縁を意味する。この句では、秋雷から想像するに離縁をきり出したように思える。

     仏壇はぎゆうぎゆう詰めや迎盆   高橋すみ子

 

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