天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鼠のうた(1/3)

 今年の干支は鼠なのに、松過ぎてから鼠のうたを取り上げるのは、恐縮至極。そこはご容赦頂きたい。鼠は、十二支の中で第一番目に当る。金運、鳳作、多産とめでたい動物として理化されている。これは、日常生活での扱いとはまるで違っている。従来、鼠は農作物を食い荒らす害獣として忌み嫌われてきた。こうした状況は短歌や俳句でどのように詠まれてきたかを見てみたい。
 まず俳句の場合。鼠を多く詠んだ有名俳人として、与謝蕪村正岡子規がいる。両者とも日常の鼠の挙動を中心に詠んでいる。二人が琴の上を渡る鼠を詠んでいるのが面白い。また子規の方がよりリアルに感じられる。蕪村の俳句を称揚し、世に俳人蕪村の名を知らしめた子規の役割が偲ばれる。

     皿を蹈鼠の音のさむさ哉    蕪村
     雪沓をはかんとすれば鼠行   蕪村
     寺寒く樒はみこぼす鼠かな   蕪村
     子鼠のちゝよと啼や夜半の秋  蕪村
     皿を踏鼠の音のさむさ哉    蕪村
     氷る燈の油うかがふ鼠かな   蕪村
     しぐるるや鼠のわたる琴の上  蕪村
     野分して鼠のわたるにわたずみ 蕪村
     羽色も鼠に染つかんこ鳥    蕪村
     眞がねはむ鼠の牙の音寒し   蕪村
     かけいねに鼠のすだく門田哉  蕪村
     糞ひとつ鼠のこぼすふすま哉  蕪村

     仏壇の柑子を落す鼠かな    子規
     冬籠り琴に鼠の足のあと    子規
     毛蒲団の上を走るや大鼠    子規
     蓬莱の陰や鼠のさゝめ言    子規
     小鼠の行列つづく師走哉    子規
     貧厨や柚味噌残りて鼠鳴く   子規
     子鼠の尿かけたる紙子かな   子規
     新わらや此頃出来し鼠の巣   子規
     水鶏叩き鼠答へて夜は明ぬ   子規
     涅槃像鼠の尿もあはれなり   子規
     蓬莱の歯朶踏みはづす鼠かな  子規
     人を噛む鼠出でけり夜半の冬  子規
     鼠入つて四隅を落す蚊帳かな  子規

[参考]干支(えと)は、十干(甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10種類)と十二支(子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の12種類)とを組み合わせた60を周期とする数詞。中国を初めとしてアジアの漢字文化圏において暦、時間、方位などに用いられる(百科事典による)。

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