鼠のうた(2/3)
短歌に詠まれた鼠は、俳句と違っておおむね厄介ものとして捉えられている。斎藤茂吉の有名歌を典型として、殺害することに強い関心を抱いていた時代があったのである。
はし鷹の招(を)ぎ餌(ゑ)にせむと構へたる押しあゆかすな鼠取るべく
拾遺集・よみ人しらず
*鼠をはし鷹の招ぎ餌にしようという。はし鷹は、鷹の総称である「ハイタカ」のことで、「疾き鷹」が語源という。オオタカと共に鷹狩に用いられた。
我がたのむ草の根をはむ鼠ぞと思へば月のうらめしきかな
散木奇歌集・源 俊頼
*散木奇歌集は、平安時代後期の源俊頼の自撰家集。源俊頼は、平安後期の歌人。進歩的で清新な歌風で知られる。
鼠等を毒殺せむとけふ一夜心楽しみわれは寝にけり
斎藤茂吉
穴ふかく堀りて鉄骨組みをればをりをり天の鼠か落ちむ
前川佐美雄
梁(はり)はしる親子ねずみを見たりけり鼠といへど親子づれはよき
前川佐美雄
わが背後(うしろ)に鼠の歯形のこりゐる穴あればふとまひるに落ち込む
葛原妙子
殺鼠剤食ひたる鼠が屋根うらによろめくさまをおもひてゐたり
葛原妙子
かりかりと晝のねずみはみづからの小さき骨を齧ることあり
葛原妙子