故郷を詠む(7/9)
たまさかに古里にかへり父母とおなじ家(や)にねつ寒き夜ごろを
半田良平
*たまさかに: 偶然に。
榛原(はりはら)に鴉群れ啼く朝曇り故里さむくなりにけむかも
土田耕平
*榛原: ハンノキ(山林中の湿地に自生し、高さ約17メートルの落葉高木)の生えている原。
ふるさとに病癒えねどかへりきて寒きあめにも日日(ひび)をおちつく
中村憲吉
*中村憲吉の故郷は、広島県三次市。大阪毎日新聞の経済部記者を最後に帰郷し、実家の酒造業に携わるが、肋膜の病気に罹る。ついには肺結核と急性感冒のため尾道市の仮寓で亡くなった。享年46歳。
あかときに二度なけるほととぎす古里の山に吾は目ざめゐる
土屋文明
ふるさとの信濃ざかひの夏草野中央線の一筋とほる
窪田章一郎
帰るべきふるさとなりき水暮れて枯葦原に雪ひびきくる
石川一成
ふるさとの槙の古木はいかならん捨てし家ゆゑかへることなく
上田三四二
*家を捨てて出て行った故郷であり再び帰ることはないが、(庭の)槙の古木がどうなったか気になる、という。