故郷を詠む(6/9)
くれなゐの梅ちるなへに故郷につくしつみにし春し思ほゆ
正岡子規
*病状が悪化し、もう庭を見ることもできなくなった子規に、伊藤左千夫が紅梅の下に土筆(つくし)を植えた盆栽を贈った。子規はその盆栽を見て、「紅梅下土筆」10首を詠んだ。その中の一首。
故さとの湖を見れば雛燕青波にまひ夏ふけにけり
島木赤彦
ふるさとの潮の遠音(とほね)のわが胸にひびくをおぼゆ初夏の雲
与謝野晶子
住みすてしたが故郷ぞ砕けたる瓦のひまにすみれにほへり
佐佐木弘綱
ふるさとの久迩(くに)の山田の稲茎にともしく光る蛍を吾が見つ
川田 順
ふるさとの尾鈴(をすず)の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り
若山牧水
*牧水の父が危篤になり帰省し、父の死までをみとった。時折、生家の裏の小高い丘にある大石に座り、尾鈴山を真向かいに眺めながら、自分の将来に想い悩んだ。その折の一首である。
椎わか葉にほひ光れりかにかくに吾れ故郷を去るべかりけり
古泉千樫
*「椎の若葉の緑色が美しく照り映えて光っている。それはともかく、私は故郷を離れるべきなのだ。」
ふるさとの山に向ひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな
石川啄木