天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

故郷を詠む(2/9)

  同じくぞ雪つもるらむと思へども君ふる里はまづぞとはるる     
                    後拾遺集藤原道長
  年をへて見る人もなきふる里にかはらぬ松ぞあるじならまし     
                   後拾遺集・藤原俊方妻
  道もなくつもれる雪に跡たえてふる里いかにさびしかるらむ     
                    金葉集・皇后宮肥後
  故郷は花こそいとど忍ばるれ散りぬるのちは訪ふ人もなし      
                     千載集・藤原基俊
  たえだえに軒の玉水おとづれて慰めがたき春のふる里
                        式子内親王
*軒の玉水: 軒先から落ちる雨垂れ。

  みよし野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり       
                    新古今集・藤原雅経
古今和歌集にある坂上是則の歌「み吉野の山の白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり」を本歌とする。

  かきくもり天ぎる雪のふる里をつもらぬさきに問ふ人もがな     
                     新古今集・小侍従
*天ぎる: 雲や霧などのために空が曇る様子。「空が一面に曇り、暗くなって降る雪が覆う古里を、積もる前に訪れてくれる人がいてほしい。」

  ふるさとに聞きしあらしのこゑも似ずわすれぬ人をさやのなか山   
                    新古今集藤原家隆
*さやのなか山(小夜の中山)で嵐の音を聞いたが、故郷で聞いたのとは似ていない、という。「わすれぬ人」とは、西行のことであろう。つまり西行ゆかりの小夜の中山で嵐に遭って、その音がふるさとで聞いた音と違っていたことに戸惑ったのだろう。
 ちなみに、私は西行の名歌「年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山」を慕って、2度ばかり小夜の中山を訪れたことがある。

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小夜の中山にて