蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(2/5)
鮎汲(くみ)の終日(ひねもす)岩に翼かな
*鮎汲む人が終日岩の上で網を振っているさまを鳥が翼を羽ばたかせているようだ、と詠んだ。
花守の身は弓矢なき案山子(かがし)哉
門口のさくらを雲のはじめかな
散(ちる)花の反古(ほうご)に成(なる)や竹ははき
山鳥の尾をふむ春の入日(いりひ)哉
*柿本人麻呂の有名歌「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」により、「山鳥の尾をふむ」は、「長い」を引き出す。句は、長い春の入日だなあ ということ。
菜の花や遠山鳥(とほやまとり)の尾上まで
*菜の花畑が遠山の峰の彼方まで遥かに続いている様子。
海棠や白粉(おしろい)に紅(べに)をあやまてる
爪(つま)紅(べに)は其海棠のつぼみかな
更衣身にしら露のはじめ哉
*命の喜びを感じる更衣の日は、はかなさの始まりでもあると詠む。
時鳥柩(ひつぎ)をつかむ雲間より
*冥土からの使いとされる時鳥の声が雲間から聞こえた。あたかも葬列の棺をつかまんばかりに。作者は葬列にいた時に雲間に時鳥の声を聞いたのだろう。