天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー米、飯、ごはん(2/6)

 日本人が日常に米を食べるようになるのは新しい時代で、古くはひきわり麦が一般的な主食であった。「白飯」は、神に供えてからお下がりを食べた。

 

  冷飯に湯をかけ食ひつつわがむかふ庭には紅し芍薬の花

                          松村英一

  それとない監視を背(せな)に感じつつわれ差入れの赤飯食ふも

                          渡辺順三

*渡辺順三は、窪田空穂に師事したが、プロレタリア文学の動きが波及していく中で、無産者歌人連盟の結成に参加し、雑誌『短歌戦線』の中心的な役割を演じる。その関係で、戦時中には弾圧を受け、検挙される。

  清らけき山の水にて炊きくれし白飯(しらいひ)のゆげに眼鏡くもりぬ

                          山下陸奥

  つつがなく帰れる吾の飯食ふを父は火燵に見てゐたまへり

                          藤沢古実

  黄に濁る河水(かすゐ)にかしぐ飯(いひ)はみてつつがはなしと互(かたみ)に書くも

                          宮 柊二

*かしぐ: この歌の場合は、「炊ぐ」で飯をたくという意味。

 つつがなし: ツツガムシに感染していないことから転じて,〈無病〉の状態をいう。

 

  めし粒をこぼしつつ食ふこの幼(をさな)貧の心をやがて知るべし

                          長澤一作

  白飯の上に香にたつ紫蘇の実を置きて悲しむ頼むもの無し

                         石田比呂志

  握り飯を食いつつ見ている一滴の水に写れる世界のかぎり

                         佐佐木幸綱

 

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芍薬の花