食のうたー果物(2/7)
桃はバラ科モモ属の落葉小高木、またその果実で中国が原産地。世界各地で栽培されている。白桃は、水蜜桃(すいみつとう)の一品種で、果肉が白く多汁で甘味が強い。明治三四年、岡山県の大久保重五郎によって発見されたという。
岡山の大いなる桃皮むけばしたたる雫よき香を立つる
窪田空穂
生きのびる心地に一つの桃を食むわがふるさとの愛はむに似て
大野とくよ
かなしみのみづみづとせる切口をさらし合ひたり桃とわれとは
築地正子
桃の皮を爪たててむく 憂鬱(ゆううつ)を ひとさしゆびと親指で剥(は)ぐ
大きなる桃の実を手に笑ひをりまるごとひとついただくつもり
久我田鶴子
*作者自身のことのようでもあるし、目の前で桃を手にして笑っている人を詠んでいるようでもある。
剥いてゐる桃の肌(はだへ)に鬱血痕いくつかあらはれて虐待ありなむ
岸本節子
*桃の皮を剥いていて鬱血痕に気づいた。桃と虐待の取り合わせは、残酷さが際立つ。
桃むく手美しければこの人も或はわれを裏切りゆかん
真鍋美恵子
ただひとつ惜しみて置きし白桃(しろもも)のゆたけきを吾は食ひをはりけり
*斎藤茂吉の代表歌のひとつ。
白桃の和毛(にこげ)ひかれり老いびとの食みあましたる夢のごとくに
米口 實