食のうたー果物(3/7)
林檎は、バラ科リンゴ属の落葉高木樹またその果実。原産地は北部コーカサス地方が有力という。品種改良が盛んで、世界では7500以上の品種が栽培されているらしい。
林檎かみぬ十月の朝庭の木の風鳴るをきき柱によりて
顔ぢゆうを口となしつつ双手して赤き林檎を噛めば悲しき
噛むやがて林檎の酸ぞ沁みとほる若きものはかく新鮮にして
植松壽樹
すりおろす林檎は忽ち錆びてゆきかすかに虫の飛ぶ音がする
大西民子
林檎割れば林檎の種(たね)のこぼれ出(で)ぬ円(まろ)く小さく堅き林檎の種
都築省吾
*林檎を割ったときの林檎の状態を丁寧に詠んでいる。こうした短歌もあるという教唆。
朝あさを籾(もみ)の中よりさぐり出すかそけき狩のごとしりんごよ
高安国世
*狩を連想したところに独自性がある。
青りんごあをく削がれし夜の卓 たちまち錆びて夏のとき過ぐ
斎藤 史
早生(はやなり)の津軽のりんごかたく酸(すゆ)し噛みて亡き吾娘(あこ)の
ごとしと思ふ 五島 茂
*作者は、歌人・石榑千亦の三男として生まれたが、佐佐木信綱の媒酌で五島美代子と結婚し五島姓となった。「亡き吾娘(あこ)」とは、急逝した長女のことであろう。
一(ひと)冬(ふゆ)の過ぎむ心か林檎煮るにほひ香(か)に立つ夜の部屋の内
柴生田稔