天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー部屋(1/2)

 部屋の語源は、別々に隔てた家の意味の「隔屋、戸屋」である。古くは小屋や物置などにも部屋という語は使われた。(語源由来辞典から)

 

  星昏き坂に従い下りくれば羽目より灯洩るる吾が部屋

                        吉田 漱

  部屋のうちに洋琴(ピアノ)の弾音ちらばれば遊蝶花揺るるごときむらさき

                        筏井嘉一

*遊蝶花: 三色菫(さんしきすみれ)のこと。ピアノの音が満ちる部屋がむらさき色に感じられた、とは。

 

  吾が鞄のほか何もなき白き部屋にめざめて電話に東京を呼ぶ

                        樋口賢治

  長方形の部屋の日向にふと影を入れたるわれのかがやきは何

                        森岡貞香

  佇ちしまま白湯(さゆ)飲み了へてしばしをり夜更けの灯光(ほかげ)定めなき部屋

                        田谷 鋭

  機械のみの寥しき室に入るとして人はのぼりゆく鉄の梯子を

                        田谷 鋭

  稲妻に白き壺あれば愕然とわれは目ざむる死に肖たる室

                        浜田 到

*稲妻に目覚めて白い壺に気づいた。骨壺に見えたのだろう。

 

  わが背後にいまこそ空虚(から)になりて泣く女(おみな)のごとき部屋あるらしも

                        岡井 隆

*空虚になって泣く女の部屋を後にした、ということをまわりくどく詠んだように思われる。

 

  この部屋から富士山見えおり干してあるストッキングを透かし見てみる

                        浜田康敬

  帰りゆくさむき部屋には抱くべき腕さへもたぬ胸像(トルソオ)が待つ

                        春日井建

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ピアノ