天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

田打

横浜市舞岡公園にて

 田の土を起こして柔らかくして、田植えに備える作業で、「田返し」ともいう。春の季語。傍題に、春田打、田を打つ、田を返す、田を鋤く など。耕運機が入らない狭い棚田などでは、人力で田を返すことになり、重労働に変わりない。


     生きかはり死にかはりして打つ田かな    村上鬼城
     ゆく雲の北は会津や春田打         岡本 眸
     高きより始まる木曾の春田打ち       木村星狂
     田起しの日和の遊行柳かな         大田土男


  荒小田(あらをだ)をかへす若人ちからある強きかひなに
  春の日は照る            佐佐木信綱


  垣越しによきしめりよと云ふ声のうれしくぞきこゆ田を
  鋤けるらし              北原白秋


  ぐんぐんと田打をしたれこめかみは非常に早く動きけるかも
                    結城哀草果
  舅(ちち)きほひ耕(す)き斃れたる田はここかわが眼に沁みて
  ひとつ菜の花             筏井嘉一


  島なかの春の深田を耡(うな)ひしか装束重く人は畦ゆく
                     田谷 鋭
  アカハタを売るわれを夏蝶越えゆけり母は故郷の田を打
  ちてゐむ               寺山修司