天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー船(5/7)

  冬の岬漕ぎたむ舟にくだちゆくぶあつき闇に貌つつまれぬ

                       前登志夫

*漕ぎたむ: 漕ぎまわる。  くだちゆく: 衰えてゆく。 冬の岬の明方の闇を描いているのだろうか。

 

  船渠(ドツク)の船の傷ことごとく塗られゆく不安なる平和なれど續けよ

                       塚本邦雄

  縹緲と広き支那海を渡りゆく孤(ひとつ)の船は想ふだに寂し

                       森本治吉

  船底に人影まばらに動きつつ打鋲す巨体にすがれるごとく

                       武川忠一

  帰帆とはつね心打つひたすらに白波立てて帰りくる船

                       高安国世

*帰帆: 港に帰る帆かけ舟。また、船で故国や港に帰ること。帰港。

 

  ただ独り夜舟を漕げばまぼろしに顕ちてすずしき那智の滝みゆ

                       岡野弘彦

  竜骨という名なつかしいずれの世に船と呼ばれて海にかえらむ

                       井辻朱美

*竜骨: 船舶の構造材のひとつで、船底中央を縦に、船首から船尾にかけて通すように配置される強度部材。

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船渠(ドツク) (WEBから)