天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー爪(2/2)

  わが切りし二十の爪がしんしんとピースの罐に冷えてゆくらし

                       寺山修司

*二十の爪とは、両手足の爪。

 

  九箇月ぶりの退院のわがよそほひは燈のもとに爪切りしのみ

                       五味保義

  ふかづめの手をポケットにづんといれ みづのしたたるやうなゆふぐれ

                       村木道彦

*「づ」のリフレインが事態を重く感じさせる。

 

  爪切りて切りたる爪のとびし方昏々として夜が生れゐる

                      真鍋美恵子

  爪先にさびしき磁気を吾はもち水仙の黄を一つ殺めつ

                       上野久雄

  風を操る俺らを見たら鉤爪の海賊たちも十字を切るさ

                       穂村 弘

  武士たちはいつ爪などを抓みたるや家出でてきて気になる爪が

                      中島やよひ

  病み痩せし四肢といへども爪のいろ仄かなり娘(こ)が父の爪切る

                       岸上 展

  足の爪遠いところに生えてゐてそれを剪(き)らむと曲げゆくからだ

                       小池 光

  切り岸に立ちて堪(こら)うる爪先に必要なもの摩擦力なり

                       長澤ちづ

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爪切り