天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

涙のうた(9/11)

  涙、涙、つかれし脳よりまぶたへ、流るるみちのはつきりとみゆ。
                       土岐善麿
  頬(ほ)につたふなみだのごはず一握(いちあく)の砂を示しし人を忘れず
                       石川啄木
  べにばなのすぎなむとして土乾く庭すみにしてわが涙いづ
                       五味保義
  わが心君に近づくこの日まづ悔の涙にみそぎししまし
                      原 阿佐緒
  夕焼けはさむざむ岩ににじみをりくりぬかれたるわが眼のなみだ
                      前川佐美雄
  あかつきをひさしく覚めて涙うかぶ友の誰よりもわれは幸あり
                      柴生田 稔
  皮むきししろき杉材に日あたれば涙のごとき樹脂がにじみぬ
                      生方たつゑ
  母の家の大きゐろりに坐るときおろかのなみだかくしもあへぬ
                       坪野哲久 

 土岐善麿は、ローマ字3行わかち書きの新体裁と社会性の濃い内容で当時の歌壇に衝撃を与え、また社会派短歌の先駆的役割を果たした。善麿は啄木と親交を深め、啄木の死後も遺族を助け、啄木を世に出すことに尽力した。
 石川啄木の歌は有名。歌集名『一握(いちあく)の砂』になった。
 原阿佐緒の歌: 悔の涙で先ず身を洗い清めたい、それから君に近づこう、という。君に対してなにか後ろめたいことをしたようだ。
 前川佐美雄の歌: 「くりぬかれたるわが眼」は比喩だろうか現実だろうか。前川佐美雄が目を患っていたという話は聞いたことがない。

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べにばな