天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー秋(2/11)

平成七年 「機関車」

     反射炉は江戸の昔よ稲雀

     鶏頭の燃えたつ里に下山せり

     腕組みて秋の夕陽の男かな

     野仏や首にかけたる烏瓜

     灯火親し隣のピアノやみて後

     櫓をこぐや葦刈る人に声かけて

     伊賀上野はやも案山子の出で立てり

 

平成八年 「プラタナス」          

     声かけて案山子と識りぬ山の畑

     酒提げてしばし佇む花野かな

     子を膝にのせて電車の花野行

     帽子とり秋立つ風を招きけり

     伝へてよ津軽の里の虫送り

     もののふのつくりし都萩の花

     朝霧の関東平野眠りたる

     頂上に立ちたる子等に天高し

     秋惜しむ一期一会の港かな

     折り紙のごとき桔梗のつぼみかな

     銭洗ふ籠新しく水澄めり

     歯並びを焼きもろこしに知られけり

     毬栗のはじけし山の夕陽かな

     種八つの禅寺丸柿王禅寺

     芒原ゆけど濁世を離れえず

     水澄むや川が境の美濃尾張

     鹿よけの有刺鉄線登山道

     新じやがを掘り起しゐる頑固者

     秋立つや惚けたる老いを叱る声

     滝壺のしぶきに迷ふ秋の蝶

     髪黒く染めて嘆かず曼珠沙華

     爽やかに弦音放てる乙女かな

     風呂上がり芙蓉の風に吹かれけり

     秋風やさざ波下の魚影濃き

     月の出の天城峠を越えゆけり

     減反の田を薫らせて早稲の風

     テニスコートの隣に続く花野かな

     秋潮のもまれて白き城ヶ島

     潮の香の濃くなる浜やきりぎりす

     新盆や馬子の引きたる精霊馬

     一面に稲の花咲く伊勢の国

     箸墓を巡りて暮れし稲田かな

 

烏瓜