天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー冬(6/9)

平成十七年 「アライグマ」           

    山門に帽子忘れてしぐれけり

          草むらに飛び込むつぶて笹子かな

          撫で牛の石まろまろと落葉かな

          落葉掻休めて僧の立ち話

          結界に佇みて聞く百舌鳥の声

          分岐して道細くなるみかん山

          水仙のすこしさみしき遺髪塚

          断崖へ篁の道笹子鳴く

          泣き顔の延命地蔵冬日

          ラグビーの空が吸ひ込むハイパント

          小春日や客待つ長谷の人力車

          芦ノ湖や波になじめる暮の雪

          行く年を顧みるなり万華鏡

          雪どさと落ちて驚く出湯かな

          大の字に明星ヶ岳雪男

          実朝の歌碑に罅割れ寒桜

          しらかしの梢鳴らせるしぐれかな

          背伸びして羽ばたく鴨にしぐれけり

          着膨れしわが影池の面にあり

          寒鯉の口浮かびくる濁りかな

          道祖神水仙の香にゑみいます

    笹鳴のやみたる後を凝視せり

    吹き降ろす風に早まる落葉かな

    そこここに落ち葉が動く群雀

 

平成十八年 「滝口」

    池の面の落葉分けゆく背鰭かな

    焼き芋の声昼時のオフィス街

    燈籠の影を伸ばせる落葉かな

    うづたかきけやき落葉や相撲場

    生徒らの声にききゐる日向ぼこ

    寒風に御霊屋の木々をめきけり

    高層のマンションの群寒波くる

    月光にささやく冬田藁ぼつち

    日の玉や冬西空に膨れ落つ

    そこここに落葉が動く群雀

    冬晴の逆白波をもやひ舟

    軍歌聞くふくらすずめの六七羽

    着膨れて一礼に去る鳥居かな

    初雪や燈籠の列あきらけく

    雪しづり大樹の下のしとどなる

    葦枯れて水面青めり相模川

    梢みな天をさしたり寒の木々

    初雪の残れる闇のなまぐさき

    雪降るやあかり点せる写経場

    雪しづり水面にぎはふ橋の下

    文人の書画見る雪の文学館

    銭湯に車ならべる冬至かな

    江ノ電を待つ小春日の竹とんぼ

    笹鳴の姿みつけし垣根かな

    白足袋が床ふんまへる弓道

 

平成十九年 「日の斑」              

    笹子啼く実朝政子墓の前

    冬きたる広場に消防音楽隊

    居眠るや電車の床の冬日

    裏門へまはるしぐれの極楽寺

    冬の海天使の梯子いく筋も

    水かける水子地蔵も師走かな

    押し寄する師走白波和賀江島

    餅つくや八幡宮の幼稚園

    信長の廟所はうつろ冬木立

    足首の失せし鳩くる日向ぼこ

    大寒の寒の極まる極楽寺

    開け放つ障子の書斎水仙

    戦艦の艫(とも)をかすめて都鳥

 

人力車